7月18日、提訴しました。十分に報道されませんでしたので以下掲載します。
(原告は12名ですが目録は省略させていただきます。)
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訴 状
平成26年 7月18日
大阪地方裁判所 御中
原告ら訴訟代理人 弁護士 井上善雄、同 河野豊、同 辻 公雄、
同 中島康之、同 吉田哲也
宝くじ販売差止等請求事件
訴訟物の価額 金160万円(算定不能)/ 貼用印紙額 金1万3000円
請 求 の 趣 旨
第1.第1次的差止請求
1 被告らは、当せん金付証票(以下、宝くじという)の販売、宣伝活動をしてはならない。
第2.予備的差止請求
1 被告らは、未成年者に対し、宝くじの販売活動をしてはならない。
2 被告らは、消費者に宝くじの購入を煽り、又は人を差別し侮辱する表示を含む宣伝販売活動をしてはならない。
第3.損害賠償請求
1 被告らは、原告ら各人に対し、各金1万円を支払え。
第4.訴訟費用
1 訴訟費用は被告らの負担とする。
以上の判決並びに第1、第2、第3項につき仮執行の宣言を求める。
請 求 の 原 因
第1.当事者
1.原告
原告らは、肩書き地に住む市民であり、その多くは「ギャンブル依存症を生む公認ギャンブルをなくす会」(略称:ギャンブルオンブズマン 以下、ギャンブルオンブズマンと略称する)の会員である。なお、ギャンブルオンブズマンは、公認ギャンブルがギャンブル依存症を生む等の弊害を社会に及ぼしていることに対し、その弊害をなくす是正活動を目的として、平成24年4月2日に正式発足した団体(代表事務局井上善雄)である。
2.被告
被告東京都及び被告大阪府(以下、被告東京都らという)は、宝くじの発売元であり、被告みずほ銀行は、その発売受託企業である。
(1)被告東京都らを含む全国都道府県及び20指定都市(大阪市外)らは、「全国自治宝くじ」の発売元である。全国自治宝くじには、通常くじ、大型くじ(3ジャンボくじ、オータムくじ、グリーンくじ等)、数字選択式全国自治宝くじ(ナンバーズ、ミニロト、ロト6、ロト7)等がある。
宝くじにはこの全国自治宝くじの他にも「東京都くじ」「関東・中部・東北くじ」「近畿くじ」「西日本くじ」とその他特定道府県くじ等がある。
被告東京都らは東京都くじや近畿くじ等の発売元でもある。
被告東京都らは、当せん金付証票法(以下、証票法という)に基づいて、自らの販売計画をたて総務大臣の許可を得て、様々な宝くじ(直近では第660回全国自治宝くじドリームジャンボ宝くじ、第661回全国自治宝くじドリームジャンボミニ5000万など)を発売している。
宝くじは、都道府県と総務大臣が指定する特定市にその発売が許されている。具体的手続としては、その知事や市長が、総務省に対し個別に発売申請をして許可を得て、政令で定める銀行(本件ではみずほ銀行)に売買(発売)を委託して行わせる。全国自治宝くじでは、東京都知事が代表をし、東京都庁内に事務所を構える「全国自治宝くじ事務協議会」が事務をまとめている。
「全国自治宝くじ」に限れば、平成25年度までに744回なされ、そのうちジャンボなど一般くじで1年に約5000億円を、数字選択くじで約4202億円を売り上げている。そして、平成26年度も次々と計画し、例えば7月4日~25日には第663回全国自治宝くじサマージャンボ宝くじ(1等4億円・前後賞各1億円合わせて6億円)などを販売する。
ちなみに、くじごとに収益金は分配される。例えば、第641回ドリームジャンボ宝くじの1回で、東京都は約38億円、大阪府は約8億円、大阪市は約9.3億円の収益を得る一方、島根県は約7千万円の収益であった。要するに、都道府県の発売額に応じた収益があり、自治体下の消化額(発売額)の約40%が収益となるのである。
(2)被告みずほ銀行は、宝くじについてほぼ全体にわたる受託業者である。宝くじの発売元と一体となり、具体的な発売企画から宝くじ券の作成、広報・宣伝、宝くじ券の配送、売り捌き、抽せん、当せん発表、当せん金の支払い、その他の受託事務を行い、収益金を発売自治体に納付するまでの事務を行う。
第2.被告らの宝くじの販売
1.宝くじの小史
被告らのかかわる宝くじ公式サイト上には、「宝くじの歴史」として次のように記載されている。
「昭和20年7月、政府は浮動購買力を吸収して軍事費の調達をはかるため、1枚10円で1等10万円が当たる富くじ“勝札”を発売しました。しかし、抽せん日を待たず終戦となったため、皮肉にも“負け札”と呼ばれるようになってしまいました。同年10月、政府は戦後の激しいインフレ防止のため浮動購買力吸収の必要性が大きくなったので、“宝くじ”という名前で「政府第1回宝籤」を発売することになりました。
さらに戦災によって荒廃した地方自治体の復興資金調達をはかるため、各都道府県が独自で宝くじを発売できることとなり、昭和21年12月に地方くじ第1号「福井県復興宝籤」(別名ふくふく籤)が登場しました。政府くじは昭和29年に廃止され、その後は地方自治体が独自又は共同で発売する自治宝くじだけが残りました。なお自治宝くじは政府宝くじが発売されていた昭和28年度までは、それと区別する意味で“地方宝くじ”と呼ばれていました。」
このように政府宝くじは廃止され、地方宝くじが自治宝くじと呼ばれて今日に至っている。
この戦争軍事政府の下で勝札を企画担当したのが株式会社日本勧業銀行であり、戦後の宝籤や証票法による政府宝くじ、自治宝くじもその日本勧業銀行が引き続き担当した。その後、銀行の破局や不祥事もあり合併を重ねて今日のみずほ銀行となっている。
第3.被告らの宝くじ販売の不法性
1.宝くじ販売と刑法187条該当性
(1)本来、宝くじは刑法187条の禁ずる富くじである。
刑法187条は、富くじ発売を賭博以上の重い犯罪とし、2年以下の懲役又は150万円以下の罰金に処すると定めている。これは、勤労によって収入を得ることが正しく、賭け事で収入を得るという国民の射倖心の拡大は社会公共の利益に反するからであった。この点は大審院判例及び最高裁判所判例も踏襲するところである。
宝くじ発売は、刑法上の「富くじ発売」に他ならず、本来は刑法が禁ずる犯罪行為である。しかし、特に例外的に事情がある場合として、証票法で一定の条件下に許している。しかし、国民の射倖心を煽るギャンブルであることは否定しようがなく、本来は正しい事業と言えない。そして、証票法が厳正に解釈され、且つ厳正な規制管理の下ではじめて、その違法性が阻却されるものである。
2.証票法による宝くじの販売活動の適法範囲と現在の発売の許容範囲の逸脱
(1)証票法の目的と許容範囲
被告らも認めるように、宝くじは、太平洋戦争に突入した日本が、軍事費捻出の一方法とした富くじの「勝札」に始まる。戦中の政府が財政危機に対応して制定した「臨時資金調整法」が、敗戦後の吉田内閣によって敗戦後の昭和21年10月29日に暫定的に改正され、「宝籤」という「当せん金付の証票」を販売したが、芦田内閣下の昭和23年4月7日、臨時資金調整法は廃止された。そして、宝くじの発行を可能とするため制定した法律が証票法である。
昭和23年7月12日公布のこの法律は、「経済の現状に即応して、当分の間、当せん金付証票法の発売により、浮動購買力を吸収し、もつて地方財政資金の調達に資することを目的とする」と明記されている(1条)。
浮動購買力とは難しい用語であるが、要するに庶民が戦時中でもいざという時のために残していた「タンス預金」のことである。戦時中政府は軍事費捻出のために莫大な税や国公債発行をしたが、それでも集められないお金を「浮動購買力」と表現し、そのお金の吸収を図ったのだった。
戦争終了後に至り、それが続けられるべき余地はなかったところ、ここで奇策が弄された。さすがに戦時中と異なり戦争資金の勝札とは言えず、宝くじと誤魔化して「戦災復興」を理由としたのである。証票法4条に「戦災による財政上の特別の必要を勘案して総務大臣が指定する市」に「公共事業その他公益の増進を目的とする事業で地方財政の運営上緊急に推進する必要がある」「費用の財源に充てるため必要がある」場合に、総務大臣が許可して発売できるとの「明文」が語っているように、戦後の窮迫した特別な経済下での一時的な地方財政資金の調達のためだった。
この条項は、戦後70年近くを経た今も証票法に明記されている。
また、宝くじは地方財政法上からも32条に「戦災による財政上の特別の必要」によるものとされている。
(2)証票法の目的の喪失
① 昭和23年7月2日、政府は国会で証票法の提案理由として「今日インフレーションの高進を抑制するため、貯蓄の増強、租税の完納、その他あらゆる手段を講じて購買力の吸収をはかる必要がありますが、現下の国民の射倖的な心理をつかんだ購買力吸収手段も十分に認められるべきものと考えられますとともに、この手法は政府の財源獲得の一助ともなり得るのであります。他面、都道府県におきましては一般財源または公債によりがたい事業の財源獲得手段として、本制度の再現を期待しております点等に鑑みまして、当分の間従来に引き続いて宝くじ制度を存置する」としている。要するに、戦後の特別に窮迫した経済情勢下における財源対策を目的としていた。
従って、戦後と言われた昭和20年代前半はともかく、昭和31年には経済白書でも「もはや戦後ではない」と言われ、引き続き宝くじに依存する財源対策が必要であるとは全く言えない状況になった。
②証票法根拠の喪失を確認した閣議決定
吉田内閣の昭和29年2月12日付の閣議決定がある。これによると、
「 当せん金付証票法に基づくいわゆる宝くじの発売については、戦後における経済の実情に即応し、浮動購買力の吸収と政府及び地方公共団体の財政資金調達のための特別の措置として暫定的にこれを実施することにしたものであって、その性質上、経済の正常化に伴い、なるべく早い機会に廃止せられるべきである。
よって、宝くじの発売については、従来から採って来た縮減の方針をこの際さらに徹底し、昭和29年度以降においては、まず政府による宝くじの発売を取りやめるものとする。
なお、地方宝くじの発売は、地方財政の現状その他の事情に鑑み、当分の間これを維持するが、今回の政府宝くじ廃止の趣旨に則り、将来適当な機会においてなるべく早く全廃することを目途として運営すべきものとする。」
としている。これは現在も生きている閣議決定である。地方宝くじも「当分の間」かろうじて許容されたにすぎない。しかも、早く全廃することが決められていた。このように昭和29(1954)年以来60年を経てもなお「当分の間」許された政策の範囲内であると納得できるような社会的事情も法的根拠も見当たらない。
従って、現在の宝くじ発売は証票法の根拠がない。
3.宝くじ販売活動と利権濫用
それにもかかわらず宝くじが何故今も続けられているのか。それは端的に言えば、賭博・宝くじにより生まれた「利権の濫用」である。
(1)役人の天下りと利権
宝くじは、都道府県、政令指定都市が自治省(総務省)大臣の許可の下に発売し、個別に自治省(総務省)の許可を必要とする。そして自治省(総務省)と自治体と受託銀行らが利権共同体となった。
地方自治体への政府からの税配分が不十分な下では、宝くじで安易に収益を得ようとする自治体や役人も生まれる。本質は楽をして確実にその収益を得、事業継続をする者にとっては極めて甘い魅力あるものとなる。この宝くじの利権を自治省(総務省)や推進拡大グループは巧みに利用したのである。
しかし、敗戦直後なら宝くじを財政上不可欠と考えていた地方行政も、本来自らの財政収入が賭博、富くじ行為によって支えられるということは良くないことは判っていた。競馬、競輪、競艇等と同じく、宝くじも大衆市民の儚い夢を射倖心で釣ったあぶく銭ということは明白であり、いかなる視点からも地方財政上の正常な収入でない。その収益金は、国民の所得や自然資源の収穫・消費に伴って生じたり、又は行政サービスを受ける対価として納められたものではない。社会の公正なサービスを税のように公平に市民が負担する原理から生まれたものでないのである。
そのため知事や首長の中にも、宝くじ依存を是とせず、自らの自治体では公営ギャンブル収益からの脱却を明言した人が、有名な美濃部都知事や黒田大阪府知事の名を出すまでもなく何十年も前から存在したのである。
そもそも、吉田内閣以来、政府自体が閣議決定で廃止方針を明示しているのだから当然である。
宝くじを継続拡大させているのは、安易な歳入手段を求める地方自治体とその役人関係者、販売受託銀行、その末端販売までの関係する業者と、宝くじ利権グループから政治献金を受けて陳情され支持を受けている政治家(屋)と、これらの体制継続の利益を得る役人である。これらは「富くじ利権集団」と呼ぶにふさわしい。まず役人でいえば、自治省(総務省)役員の宝くじ関係団体への高給取りの天下りがある。その例の一つが後記表1である。また、地方自治体職員にも利権がある。
(2)勧業銀行からみずほ銀行までの利権
勧業銀行を引き継ぎ、宝くじという富くじの最大の利権企業は、発売受託者のみずほ銀行である。宝くじの発売「胴元」は地方自治体だが、今ではみずほ銀行がその「仕切り役」になる。
(3)宝くじ受託者からの請負、再受託における利権
①宝くじ販売関係企業の利権
実は、これらの企業や利権は十分情報公開されていない。販売業務の利益構造、販売システムの公正な選定については非公開部分が多い。自治体からの再販売受託企業もみずほ銀行と同様の利権の領域となっている。
実は、個々宝くじ売り場の数や場所をめぐっては、みずほ銀行のうち旧勧銀職員ないしその関連企業が利益を吸い上げている。そこにも利権が絡む。
全国の宝くじの種類は年々増加傾向にあり、販売額は平成11年に1兆円を超え、以降1兆円台が続いている。今日ではミニロト、ロト6、ロト7、さらにスクラッチまでの様々な「商品」が取りそろえられ、ATMやインターネット販売まで展開し完全に日常化している。
宝くじの販売拡大のため、売りさばき業者数は1434業者、宝くじ売り場は16999箇所(有人11906、無人ATM5093)に及び(平成21年)、それらは平成20年度では売りさばき手数料769億5900万円と支払手数料32億4100万円を得ている。
②宝くじ印刷関係企業
宝くじの日常化・大量印刷に伴い、それらの印刷製造・運送体制がしかれ、そこでの利権も莫大なものとなっている。
ちなみに宝くじ券の印刷、運送費は95億3700万円であった(平成20年度)。
③宝くじ宣伝関係企業
ジャンボ宝くじ等の車内吊りやテレビ・新聞等の広告では、例えば電通が大きな利権を得て仕切っている。
後述する許されない不法・不当な広告は、被告らが電通を採用し低水準の宣伝を許したものであり、その責任は被告らにある。被告らは、許されないこれらの不法・不当な広告や表示について禁止せず、手段を問わず、いわば宝くじが大量に売れれば良いというものであった。
もちろん、このような宝くじの運営体制は、販売元の自治体の役人、受託者みずほ銀行の職員、宣伝・広報担当の電通らが組んで行っているものである。
販売促進広告費は133億3200万円であった(平成20年度)。
(4)宝くじ利権法人
宝くじを推進する団体として設立され活動する法人は、公益法人化されて税法上の利益も得ているため、一部情報公開されている。
主要団体は8団体である。
①一般財団法人日本宝くじ協会(昭和39年設立)
宝くじ関係の最大の推進団体で、平成21年で普及宣伝受託料174億3753万389円の受託金を受け、自治省(総務省)の元事務次官の理事長など天下りを抱えている。この協会は宝くじに群がる「利権ムラ」を束ねる役割を持ってきた。
②一般財団法人自治総合センター(昭和52年設立)
昭和53年から宝くじの宣伝普及をはじめ、「宝くじ資金審議委員会」を仕切って、宝くじの金の使い方もリードしている。その受託収入は、平成21年で930万8515円。ここも総務省の天下りがリードする団体となっている。
③一般財団法人全国市町村振興協会(昭和54年設立)
実は、収益金の10%を、発売権のない市町村も得られるようにしている。平成21年では収益金143億円のうち81億円(57%)を貸付金、60億円(42%)を地方自治情報センター(15.6億円)、地域活性化センター(7億円)、地域総合整備財団(5.5億円)など27団体に配分している。
これは、発売権のない地方自治体に対し、宝くじの利権に不満を言わせないために利権の一部バラ撒きをする団体である。
④その他
宝くじの利権を得る法人としては、前記の3団体の外、公益財団法人全国市町村研修財団、一般財団法人自治体国際化協会、一般財団法人自治体衛星通信機構、一般財団法人地域創造などがある。
これらの各団体は、所管官庁である自治省(総務省)の指導の下に運営され、官僚、地方自治体も含め、役人の天下り先になっている。もちろん、この役員・職員の高額報酬も運営経費となる。
歴代(自治省・総務省)事務次官の宝くじ関係団体への天下り例をみると次のとおりである。
(表1)
事務次官 在任期間 天 下 り 先
柴田 護 S41-44 自治総合センター会長兼理事長、日本宝くじ協会理事長
松浦 功 S51-52 地方自治情報センター理事長
首藤 堯 S52-53 日本宝くじ協会理事長、地方自治情報センター理事長、
地域総合整備財団理事長、日本宝くじシステム社長
林 忠雄 S53-54 自治総合センター理事長、地域活性化センター理事長
近藤 隆之 S56-57 地方自治情報センター理事長、全国市町村振興協会理事長
土屋 佳照 S57-59 自治総合センター理事長
石原 信雄 S59-61 地方自治情報センター理事長
花岡 圭三 S61-62 地方自治情報センター理事長、日本宝くじ協会理事長、
日本宝くじシステム社長
大林 勝臣 S62-H1 自治総合センター理事長、同会長・顧問
津田 正 H1-2 自治体国際化協会理事長、自治体衛星通信機構理事長、
地域総合整備財団理事長、地域活性化センター理事長、
日本宝くじシステム社長
持永 堯民 H2-3 自治体衛星通信機構理事長
小林 実 H3-5 自治総合センター理事長、自治体衛星通信機構、
地域活性化センター理事長
森 繁一 H5-6 自治体国際化協会理事長、地域創造理事長
湯浅 利夫 H6-7 自治総合センター理事長、地域総合整備財団理事長
吉田 弘正 H7-8 地域活性化センター理事長、地域総合整備財団理事長
遠藤 安彦 H8-10 地域創造理事長、自治体衛星通信機構理事長
松本 英昭 H10-11 自治体総合センター理事長
二橋 正弘 H11-13 自治体国際化協会理事長、自治総合センター理事長
これらをみると、宝くじの宣伝拡大をする「日本宝くじ協会」とその宣伝と配分に関わる「自治総合センター」、さらに宝くじから収益を得る団体を増やして、天下り対象が日常化拡大してきたことがわかる。
さすがにこの「天下り」と弊害は、平成22年の「事業仕分け」で問題にされた。しかし、その後も総務省から弊害解消の情報公開は十分されておらず、「利権の巣」が温存されている。
(5)宝くじ利権役人「ムラ」と業者「ムラ」
このように宝くじには利権が渦巻いている。発売権のない全国の市町村、そして多くの団体・企業が宝くじ収入を「アテ」にする仕組みを作っており、宝くじの利権「ムラ」がつくられているのである。
第一に売上金の約40%以上が発売元団体(地方自治体)へ行く。そして、その約15%がその手数料ということになる。そのなかで宝くじの印刷、広告、販売窓口・換金経費が賄われ、印刷~広告・販売~当選者への換金までの手数料のそれぞれの中に多大な報酬利益が含まれる。そして残る45%が購入者(消費者)の1等を含む当せん金となる。
1兆円の売上げの15%というと1500億円であり、まともな銀行手数料の比ではない「儲け仕事」となる。そして、その傘下に再販売企業らが「巣喰う」ことになる。
平成20年度実績で、売上金1兆419億円の45.67%が当せん金で、売上げ収益金(自治体へ)が40.13%、残る14.2%が手数料だった。
4.宝くじ販売宣伝販売活動の不法性
(1)宝くじの営利主義広告宣伝は許されない
① 世界には宝くじ、ロトといわれる類似のものが限られた条件(政府・自治体など最少限)で発売されるが、商業主義・営利主義の広告による宣伝は許されていない。これは本来、賭博勧誘行為を無差別に広告することは許されないという規範意識があるからである。
② 証票法は、宝くじの発売に関し、宝くじの転売を禁じている(6条7項)。宝くじについての告示もⅰその名称、ⅱ受託銀行名称・所在地、ⅲ発売の数及び総額、ⅳ証票金額、ⅴ発売期間、ⅵ当せん金品の金額又は種類及び当せん数、ⅶ受託銀行から直接に購入した者若しくは当該購入者から贈与を受けた者又はこれらの者の相続人その他一般承継人以外の者は当せん金品を受領できないこと、ⅷ証票を転売できないこと、ⅸその他必要な事項を告示することが義務付けられている(7条1項)。
そして、証票の義務的記載事項として、ⅰその名称、ⅱ発売者、ⅲ受託銀行等の名称、ⅳ証票金額、ⅴくじ引に必要な組及び番号又は表示、ⅵ第10条に掲げる事項(滅失、紛失又は盗難に因る当せん金付証票の再交付はできないこと)、ⅶ当せん金付証票の当せん金品の債権の時効完成の年月日、ⅷ受託銀行から直接に購入した者若しくは当該購入者から贈与を受けた者又はこれらの者の相続人その他一般承継人以外の者は当せん金品を受領できないこと、ⅸ証票を転売できないことが定められている(9条)。
そして、証票法13条2項は、広報・広告活動について「住民の理解を深めるための措置等」として「都道府県知事又は特定市の市長は、相互に協力して広報活動等を行うことにより、当せん金付証票の発売が地方財政資金の調達に寄与していることについて住民の理解を深めるとともに、当せん金付証票に関する世論の動向等を的確に把握するように努めなければならない」とある。
しかし、専ら販売促進のための広告を証票法は全く予定していないのである。これは宝くじが本来、富くじという刑罰に該当する反社会的・反教育的行為であるため当然であった。
(2)手段を選ばぬ発売拡大と不当表示と詐欺まがい販売による消費者の被害
① 消費者基本法は、1条で「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務等を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項を定めることにより、消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策の推進を図り、もつて国民の消費生活の安定及び向上を確保することを目的とする。」と定める。2条の基本理念1項では「消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策(以下「消費者政策」という。)の推進は、国民の消費生活における基本的な需要が満たされ、その健全な生活環境が確保される中で、消費者の安全が確保され、商品及び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保され、消費者に対し必要な情報及び教育の機会が提供され、消費者の意見が消費者政策に反映され、並びに消費者に被害が生じた場合には適切かつ迅速に救済されることが消費者の権利であることを尊重するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援することを基本として行われなければならない。」とある。
そして、3条で国、4条で地方自治体、5条で事業者についての責務を定める。
この点、宝くじは、4条の地方自治体が5条の事業者ともなるものであり、5条1項の供給する商品及び役務について、1)取引における公正、2)必要情報を明確かつ平易に提供すること、3)取引に関して消費者の知識、経験及び財産の状況に配慮すること、4)苦情の適切かつ迅速処理と必要な体制処理の責務がある。
そして15条では、広告その他の表示の適正化等として「選択を誤ることがないようにすること」「虚偽又は誇大な広告その他の表示規制」を講ずるものとするとされる等、消費者の権利の増進が求められている。
さらに消費者契約法は1条で「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定め、宝くじという「商品」も含めて、より具体的に「消費者契約」による消費者側を救済する権利や手続を定めている。
さらに、不当景品類及び不当表示防止法は1条で「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」と定め、4条で不当な表示を禁止している。
本件宝くじは、この4条1項3号の不当表示の該当性が高いのである。
② まず宝くじは、総務省データによると、仮に宝くじを1000円分購入したとして、全体として約45.7%(457円)しか購入者へ当選配分されない。約40.1%(401円)は地方自治体収益金となり、残りは販売受託の銀行と売りさばき業者らの手数料に7.7%(77円)、印刷や宣伝費に6.5%(65円)等という。すなわち、控除率25%といわれる競馬・競輪・競艇に比べても、宝くじは「胴元」の控除金(率)「テラ銭」が多い。ここから、宝くじは世界最大の「ボッタクリくじ」といわれる。
③ 購入者は消費者であるが、被告らは消費者の権利を尊重するどころか、不当表示防止法1条、4条に違反する詐欺まがい商法をしている。
被告らはかつて、3億円が当たったらどうしようかと西田敏行にテレビ広告で言わせていた。しかし、真実は300円券1000万枚に一つ当たる確率である。1人が30億円分を買って3億円を当てようというなら別だが、人が隕石に当たる確率より低いのに、販売にあたりこの真実の事情を購入者である大衆には説明しない。むしろ、多くのユニット販売という仮定のトリックを使い、多数当たると錯覚させている。
例えば、2010年年末ジャンボでは「1等2億円74本、2等1億円370本、前後賞合わせて3億円」「今年は億の当たり倍増」と宣伝していた。これは実は、74ユニット、売買総額が2220億円になった場合の仮定の数字であり、例えば一人が連続番号で30億円買えばその中に1等2億円が1本、前後賞2本で1億円、2等1億円が5本で5億円、3等100万円が100本で1億円というように6等の300円当せん金を含め、結局30億円の約45%ぐらいが当たる(回収できる)というもので、当選くじの「射倖度」を高めただけであった。
従って、億円当たりが倍増というのは、くじの売れ高が倍増した場合のことであり、この点も不当表示であった。
そして、このユニットのトリックは、購入者が案内を余程注意しないと読めないような細字でしか書かれていない。
このような「射倖度」をさらに高めて近頃では1等6億円のジャンボ宝くじなどまで「ユニットの錯覚」を利用して行われている。6億円を当てるには1等と連続の前後賞を含む3枚の900円分を買った場合であり、1等4億円は1000万分の1の確率で、そしてその前後賞も当てるのはさらにそれよりも低い確率となる。
また、同時発売の宝くじでは「6000万円がたくさん当たる」と喧伝するが、詳しく調べると270億円分売れた場合に90本当たりが出るというもので、1ユニット30億円分では10本ということになる。つまり100万分の1の確率であるから「たくさん当たる」と繰り返す宣伝は不当表示である。
また、被告らは、テレビCMや吊り広告等で木村拓哉を使って「1等1億円が当たったら何に使おうかと考えている」「うちのスタッフの青木さんが高額当選しました」「1等1億円が当たる気がしている」「10万円くじで4万本なら10万円はきっと当たると信じている」等といかにも蓋然性が高いと錯覚させる言い方で広告していた。
かくて近年は、1回に万円単位の購入をする者も少なくない。さも当選率が高いかのような宣伝・表示は明らかに「ペテン」で、これが今も変わることなく行われているのである。
このような実態は、消費者基本法1条、2条、4条、5条に違反する。被告東京都らは同法4条の地方公共団体の責務に自ら反し、また被告みずほ銀行を含む被告らは5条の事業者の責務に反していることが明らかである。
ちなみに、宝くじ公式サイトでは、宝くじ購入経験者は国民の78.5%、人口8344万人といい、購入額は一人当たり平均で年2万5210円(人口5592万人として)と宣伝している。国民の圧倒的多数から2万5210円の約45%にあたる一人当たり平均1万3886円を奪っていると白状しているに他ならない。
(3)宝くじによる「大衆収奪」と反社会性・反消費者性
宝くじは高収入の人でなく、経済的に弱い貧しい大衆からさらにお金を搾り取る収奪である。
谷岡一郎大阪商大教授は、宝くじは社会的弱者への「税金」と評する。教授は、客観的に正しい調査をし、①貧しく、②教育歴が低く、③持ち家がなく、④昇進の遅い人ほど宝くじを買い、弱者が実現性のほとんどない夢でも高いステイタスを求める心理から宝くじを購入すること等を詳しく分析している。
宝くじ公式サイトも、購入者は「賞金目当」、「大きな夢」を求めているとし、さらに宝くじ潜在人口を2236万人として狙いを定めている。
大衆の射倖心を煽り、大衆収奪につながる宝くじ事業を主宰するのが地域住民に奉仕すべき地方自治体であり、更にその事業の許認可権を持ち、関連業界団体への天下りで潤っているのが総務省らの役人であるからその罪は深い。
宝くじは、憲法のいう市民の平等と住民の福祉を図る地方自治体の本旨に反し、地方自治法1条の目的、2条の基本原則に反している。これは住民の福祉の増進に反し、射倖心を利用した収奪である。
(4)ギャンブルの未成年者販売を含む無差別拡大と反社会性
宝くじは、未成年者やギャンブル依存症者へ販売をしている。
中・高校には売らないようにしているという弁明もあるが、それは学生服を着用している者への自制ということであって、たばこ販売レベルの証明などは全くない。
例えば、被告らは生活保護受給者にも売っているし、購入者が家族の金を盗んだり、また人が他人から盗んだりした金であろうがその出処を問うことはない。
かくて宝くじは、日本においてパチスロよりも多くの5000万人を超える規模の参加者数となって、約1兆円を売り上げるのである。
今日560万人という「ギャンブル依存症」の解消が求められるが、ギャンブルの中で利用者の最も多いのが宝くじである。宝くじも依存症患者の発生原因の一つとなっており、実は国民のギャンブル参加の入り口となり、そして国民のギャンブル基盤人口を支えている。
(5)被告らによる人権侵害、社会差別広告と人格権侵害
被告らが平成26年5月14日から6月4日まで発売したドリームジャンボ宝くじ(第660回全国自治宝くじ 1等5.5億円)とドリームジャンボミニ5000万(第661回全国自治宝くじ)について、その購入を呼びかける広告がテレビ等で大々的になされた。
これらは、人力車に乗ったドレス姿のお嬢様と車夫が宝くじ売り場の前でおよそ次のような会話をして宣伝する。
まずドリームジャンボについて、お嬢様が車夫を見下しつつ「タイゾウ!ドリームジャンボは5.5億、もし当たったら」というと、車夫が「もし当たったら5.5億円分の花束をお嬢様に」と下から答え、お嬢様は「それはスゴク邪魔だ」と車夫を見下し切り捨てる。そしてジャンボミニについて、お嬢様が「タイゾウ、ドリームジャンボミニ」というと、車夫が「5000万円が沢山当たります、お嬢様からいただいた愛情ぐらい・・・」と答える。するとお嬢様は車夫に「お前には米粒ほども(愛情を)与えたおぼえはない」と罵倒し、車夫の口元の米粒を取り上げて嬌声を上げ侮辱するものである。
そして、お嬢様は宝くじ売り場の前の歩道上で「沢山下さる」と言って大量の宝くじを買う申込をするというストーリーとなっている。
これは、身分が高くお金持ちのお嬢様とそれに仕える車夫のやりとりである。
お嬢様が車夫に対して、一見して身分差別、階級差別をし馬鹿にし侮辱した発言をし、平気で車夫を笑い飛ばしている。
こんな下劣な差別発言・行動のCMをつくって全国に流しているのが、被告らの全国都道府県、政令自治体とその委託を受けたみずほ銀行である。このCMは発売を増やすためだけにされていることを考えると、およそ人権を守り社会差別をなくすべき公共自治体、そして社会的コンプライアンスを強く求められる大手銀行がスポンサーである広告とは信じられない暴挙といえる。これをテレビで子供にも無差別に視せるゴールデンタイムに流し続けたのである。
これは「奇を衒う」広告で目立ちたいだけともいえるかもしれない。しかし、宝くじは刑法187条で規制される「富くじ」である。仮に今も特別な立法により違法性を阻却し許されているとしても、証票法に反しこれを子供も視るテレビで大々的に宣伝することは反社会的・反教育的で広告規範・公共規範に反するものであった。このCMはその上二重三重に原告らを含む人の尊厳を踏みにじるものであった。
そこでギャンブルオンブズマンには会員内外から、このCM広告で心が傷ついたとし、放置できないとの意見も寄せられた。
富くじ(宝くじ)は抑制されて然るべきものであり、宝くじに熱中する依存症の存在も知られるところである。そしてギャンブルオンブズマンは
今回のCMは、広告業協会の広告倫理綱領にも反し、
①倫理及び品位と善良な習慣を損なうもの、
②差別発言を繰り返して人権を尊重せず、他者を誹謗中傷するもの、
③健全な社会秩序を損ない、幼少年の健全な生育を妨げるもの、
④路上からくじを買うという道交法に違反するもの
などとして、平成26年5月28日付にて被告みずほ銀行と全国自治宝くじ事務協議会に対して是正の申入書を送付した。
また同日、みずほ銀行大阪中央支店と大阪市にも直接訪問して口頭と同文書で問題を指摘し改善を申し入れた。
ところが、このような不法不当な広告について被告らは全く反省せず、宝くじ販売締切まで広告を続けたのであった。
そして、販売期間が終わってから6月6日に「みずほ銀行担当」という者からギャンブルオンブズマンに電話があり、「私たちは何ら問題があるものと考えません」と通知された。担当者はこの電話一本で回答とするとし、それ以上の説明を求めても拒絶された。そこには反省や消費者基本法にある市民消費者の意見を聞くという態度さえ全くなかった。
(6)その他宝くじ販売をめぐる不法事実
被告らの宝くじ販売をめぐっては、以上の外に多くの不法事例がある。以下、事例を示す。
①宝くじ売り場の道路不法占拠と路上販売活動
宝くじ売り場といえど道路上に販売店をはみ出したり、販売施設や看板、幟旗などの広告物を置くことは許されない。
しかし、近年原告らが指摘するも路上はみ出し店や路上はみ出し施設、広告物は是正されずなくならない。原告らは、被告みずほ銀行にその是正を申し入れるも、逆に逐一どこかと特定を求められればまだ良い方で、被告東京都らも被告みずほ銀行も再委託業者がどんな店でどんな販売をしているのか点検していない。そのため、本訴時点でも路上はみ出し店が残っている。
さらに、売り出し時や発売終了日近くでは路上に幟旗や机を出したり、客を路上に並ばせて販売活動をしている例は多い。これらは道路法や道路交通法に違反する販売方法である。
②販売店での虚偽表示・不当表示
宝くじは無作為抽籤により当せん番号を決定するものであり、宝くじが大量に売れる売り場ほど当たりくじが多いし、カラくじも多くなるのは確率上当然のことである。よって、特定の売り場が当たりやすいということはないし、それを宣伝することは虚偽表示・不当表示である。
ⅰ)販売にあたって売り場担当従業員が「今日のは当たりがある。この売り場はよう当たりが出んねん。大丈夫やで」等と宣伝することが多くある。
ⅱ)口頭の宣伝どころか看板にまで表示して掲出している。例えば、大阪天王寺のターミナル駅の売り場では長期にわたって自分の店について「億万長者がいちばん出ている売場です」という大形看板を出していた。
これについてギャンブルオンブズマンは、被告みずほ銀行に対し、こんな販売方法は不当表示であると指摘した。ところが、当初担当者は、そんな店は知らないし、あっても問題がないかのように対応した。府の職員やみずほ銀行職員も含め1日に何千何万人もの往来する売り場のことを知らないでは済ませられず、具体的にその売り場の場所を指摘したところ、ようやく担当者は検討しておきますということだった。そしてかなり経ってから、その看板の「いちばん」という部分だけ白紙で隠されたのであった。
これは、発売元も受託者みずほ銀行も再受託者も不当表示に注意を払っていないことの証拠である。
ⅲ)実は今でも、「98%の確率で3億円当たる10の売り場!」という大文字印刷物(週刊誌)を窓口に大きく貼り出している店が現存する。どうやら平成20年の年末ジャンボで2等が出た店を週刊誌が報じ、この記事を拡大して表示しているようである。しかし、長年の販売活動の中で何年かに一回2等が出たとしても、それをわざわざよく当たることの宣伝にして販売活動をすることは詐欺まがいである。
ⅳ)ギャンブルオンブズマンが、被告みずほ銀行に対し当たりやすい売り場はあるかと尋ねたところ、「それはない」との答えであった。しかるに、たまたま過去に大当たりが出たことを大きく看板にしていても、それが事実なら不当表示ではないと言い訳をした。
しかし、「宝くじを買うなら大当たりくじの出る当店で」としつつ、「当店から億円くじが出ました」「億万長者が出ました」と大々的に広告するのは、結局は購入者の「錯覚」を利用した不当表示の販売方法であり詐欺まがい商法である。
③宝くじをめぐる詐欺商法の放置
宝くじは本来、確実に当てる方法はない。しかし、悪徳業者が宝くじを当てる方法などという詐欺本や当てるための道具を高額販売などしている。
この現状について原告らは被告みずほ銀行らに告知もし、是正も求めた。そして、被告みずほ銀行らに対し是正行動の提案をしても、自らのしていることではないとして、全くあずかり知らぬ対応であった。被告みずほ銀行の担当者に対し、あなた方が正当に売っているという宝くじについて購入者を欺した宣伝をしていることを実質営業妨害とも考えないのかと問うも、「私共は関係ない」との対応であった。
結局被告らは、宝くじ便乗の悪徳商法も「宝くじを買うことに繋がればよい」との感覚で、宝くじを利用した悪徳商法を放置しているのである。
しかし、宝くじ制度を利用して判断力の弱い消費者に不実の宣伝をし、さらに喰い物にする悪徳業者に対し、地方自治体である被告東京都らや受託者被告みずほ銀行が知らぬ顔をし続けることは、いわば自ら「射倖心の広場」「欺されやすい広場」に市民を誘致しておき、その広場での「詐欺団・窃盗団」を野放しにしているに外ならない。これでは詐欺の「共犯」との非難は免れない。
第4.不法・不当な宝くじ宣伝拡大と差し止めの必要性
総務省や被告らは、法令と閣議決定に反し、宝くじをやめるどころか宝くじについて拡大推進活動をしている。宝くじの売上が伸びないと、日本のギャンブルとしての利権領域が小さくなるため、総務省は関係自治体職員と販売関係企業職員を加えた「宝くじ活性化検討会」を設置し、平成23年12月に報告書を公表した。報告は「宝くじ活性化」を打ち出して、被告らに販売の拡大促進を求めている。しかし、その拡大促進の企画を求める担い手は実は被告らでもある。
その「活性化」報告では、先見的に宝くじが社会貢献をし、幅広い世代で楽しめるものとして「宝くじを買うことがカッコいい」とまでのイメージ戦略をいい、スマートフォン等での若年向け、女性向けターゲット商品の導入(総務省も宝くじを自ら「商品」という)をいう。「消費者の利便性向上及び販売チャンネルの拡充」としてインターネット販売、コンビニエンスストア販売、ATM購入を推進させてきた。また、販売団体がもっと自由に効率的に発売活動をできるよう、証票法の改正案まで打ち出している。
そして、宝くじのマーケティング戦略を強化、インターネットを含む広告メディアの多様化、①当せん金最高倍率の引き上げ、②当たりやすいくじ、③遊び心のあるくじ(スマートフォンで気軽に楽しめるくじ)や、宝くじファン等会員制度の創設などをいう。これらは実は全て宝くじ利権集団の事務局が考えた構想プレゼンテーションを検討会が追認したものである。
これらの御用検討会委員は大学教授やメディア、宣伝、自治体行政の役員、営業マーケティング拡大にかかわる企業人であり、誰一人として宝くじの本来法制、富くじの本質、社会への害などを考えた形跡は全くない。ただ宝くじ商品をより多く売ることしか考えない「偏向」報告書である。
このような法令や閣議決定を無視し真実を歪めた報告により、被告らが展開している宝くじ販売拡大戦略は、いわば「毒薬」を「良薬」と大々的に宣伝するに等しく、この点でも差し止める必要がある。
第5.原告らの差し止めを求める権利
1.原告らと原告らの結成したギャンブルオンブズマンは、日本の市民及び市民団体で、宝くじを含 む賭博が生み拡大させる賭博依存症(ギャンブル依存症、賭博嗜癖、障害、病的賭博)や、その賭博の悪影響で市民の平穏な生活、家族の生活、さらには教育・文化を含む社会にもたらされる弊害をなくすために活動している。
もとより、これらの賭博をめぐる病的現象は宝くじに限らず、同種のサッカーくじtotoや競馬、競輪、競艇、オートレースの「公営競技(4K)」、さらに風俗営業とはいうも実質換金方式をとるギャンブルであるパチンコ、スロットによっても本人や家族の破綻者、自殺者までを生む原因となっている。
今や日本で560万人とも推計される賭博依存症を生むのは数の上ではパチスロと4Kが主役ともいわれるが、依存症をよく知り治療にあたる医師は、宝くじ、totoを含めたくじもその原因であると指摘している。
今日ギャンブルをする者は、参加人口の最も多い宝くじから常習的なパチスロ、日常化する公営ギャンブルまで「かけもち」も多いのである。
2.宝くじは、証票法が未成年者への販売を明文上禁止していない「欠陥」もあり、未成年者も若くして参加できるギャンブルとなっている。
被告らは、宝くじの本質が刑法によって本来禁止される賭博・富くじであることを忘却させ、あたかもその売上を増やすことが社会的に役立つという偏頗な面だけを強調する。テレビ、新聞、雑誌の広告媒体を使い、そして天下り団体までを使って宝くじを本質的に公益性があるものとまで錯覚させているのである。
宝くじの収益金は社会的公益に役立つと宣伝するが、大衆収奪の「悪銭」である。しかし、宝くじや公営賭博収益金は、それによって生んだ賭博依存症患者の治療やその家族への救済には全く出捐していない。
ギャングやマフィアがバクチで稼ぎ、その一部を公益団体・福祉団体に寄付する売名をすることもある。だが、金そのものに「色」は付いていないとはいえ、例え全て公益に使ったとしても、賭博で人の金を収奪した「汚れた金」は良き収入金と評価できない。
この富くじが人の金員を収奪するという本質を忘却し、しかも今日なお売上本位に不正・不当な販売活動をすることは反社会的・反公益的である。
3.被告らは、仮に宝くじは賭博・富くじだといわれようと、ただの市民・市民団体である原告らが何の権利があってその差し止めを求めるのかというであろう。
しかし、原告らは、現代社会においてギャンブルによる人的・物的被害を増やさないでほしいと言い求める権利がないとは考えない。良き社会を求め、社会や市民を害する行為を止めてほしいと求める権利はあると主張する。
莫大な被害を知り、その弊害を知る市民は、賭博・富くじ(宝くじ)により、家族、近親者、友人知人、そして地域社会にその害が及ぶことに耐えられない。遺憾ながら今賭博依存症にある者は、その加害者に対し是正を求める能力がない。賭博依存症者は本来は自らその病から脱する努力をし続けなければならない。しかし、そこから脱する道さえ教えられず、それどころか被告らからその誘惑の「ワナ」の中にいつまでも置かれ続けている。ようやく少し自覚し得ても、まずは依存から脱することだけでも困難である。
だとすれば、この病や様々な害を知って抑制に努力する者、家族、市民や市民団体がその取り組みをしなければならない。そして、原告らには金を儲けるために止まぬ被告らの賭博開帳、富くじ販売の差し止めを求めるしかない。これを現在の法概念でいえば「人格権」の範囲といえる。
4.被告東京都ら地方自治体は、本来は不可欠な公益目的の事務・事業を行うために存する。それは、正当な市民からの税収入により、直接地域市民の福祉増進活動たる施策を行うためにある。市民は自治体に不可欠な行政の「公共信託」をし、被告東京都らはその「公共信託」を受託しているのである。この点、宝くじの販売は前記の事実に照らせばこの「公共信託」の逸脱であり、国民・住民の信託による政治を定める憲法、地方自治法に違反する。
今の宝くじの販売はこの公共信託に反しており、公共信託に反した行為について差し止めを求めることも市民の権利である。
第6.損害と損害賠償
原告らは、被告らの宝くじの販売によって損害を受けた。実は、その宣伝表示に欺されて宝くじを買うもほとんどカラくじで、数万円を損した者もいる。
例えば、東北の大震災救済という宝くじ(東日本大震災復興宝くじ、東日本大震災復興東京都宝くじ)や支援するための協賛くじ(東日本大震災復興支援グリーンジャンボ宝くじ等)があった。これらの宝くじが直接的に被災者救済資金に充てられるのかと思わされたが、発売元の自治体に所定の収益金が入るだけで被災者には直接配分されなかった。14~15%のみずほ銀行らの手数料も全く同じで、発売元らはいわば儲け商品である宝くじの販売に、被災者救済の美名を借りただけであった。例えば、みずほ銀行らが手数料に関しボランティア(無償ないし低額)で仕事をしたというような事実もないのである。
また、窓口で本当に看板のようによく当たるのですかと聞き、何十枚も買ったところが、結局300円当せん金が何枚か当たっただけの者もいる。
もちろん、宝くじの大当たりを信じて買い続ける常習者を近親にもつ者もいる。
これらの宝くじの不正不当な販売は、本来被告らが是正すべきものであるところ、これを是正しないことには耐え難いものがある。
被告らは、テレビCMや吊り広告などでくり返し不正不当表示をし、さらには人を差別することで傷つき、その苦情を申し出てもこれを無視し、誠意ある対応もしない。これは地方自治体である被告東京都らと被告みずほ銀行が一体となり、市民の平穏さと消費者の権利を侵害し損害を与え続けたものである。
このような不法な攻撃的営業により生じた損害に対し、被告らに、原告ら各人1万円の慰藉料を請求する。
【裁判情報】 大阪地方裁判所 第8民事部合議2係 平成26年(ワ)第6683号事件
初回期日:平成26年9月3日(水)午前10時30分 808号法廷(傍聴可)